ゲームブンセキ

ゲームの感想、分析、そしてリスペクト

東方Projectは妖怪との出会いを再構築したゲーム

東方Projectは変なゲームだ。東方鬼形獣の体験版をプレイしながら改めてそう思った。

システムは古典的な弾幕STGだ。弾を避け、危なくなったらボムを撃って敵を倒す。弾幕自体の難易度はさておき何をすべきかは非常にシンプルである。

その一方で設定やストーリーはゲームクリアしただけでは判然としない。

舞台である幻想郷がどんな場所かといった説明はゲーム内にはほとんどない。
一通りクリアしてもどんな異変が起こって、何が原因だったかは最低限しか説明されない。
キャラクターのデザインは妖怪や神の意匠をうまく取り入れているが言われて気づくようなポイントも多い。その上数少ないセリフは奇妙なジョークに溢れていて、キャラクターの設定やどんな妖怪だったか付属のおまけテキストを見ないとわからないことは珍しくはない。


いや、元ネタがマイナーで設定を見てもわからないことさえ多々ある。

 

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東方をプレイしたときに抱く一般的な感想


いままでこれはSTGとしてテンポを維持しつつキャラの魅力を引き出すための折衷案として考えていた。セリフはジョークに充てて、設定や詳細なストーリーをテキストで外付けすることで繰り返し遊ぶSTGがダレてしまわないようにするためのものだと。
でも最近はそれに加えて「妖怪(とか神とか妖精とか)の再認識」をするのに最適化されているのではと思い始めている。

妖怪の再認識

想像してほしい。マイクスタンドに向かって駆け寄って
「どぉ~も~『小豆洗い』でぇ~す!!シャカシャカと音を立てたいと思いまぁ~す」
と意気揚々と名乗りながら現れる妖怪を。
パッと見ウケるかもしれないが「気になる」気持ちが完結してしまうので特に調べようとも思わなくなる。まして自分からべらべらと特徴を話すのは妖怪として*1粋ではない。
妖怪や物の怪の類を知る過程に不思議さや畏れがなければその魅力はスポイルされてしまう。
例えば夜中に小豆を洗うような音を聞いた後日、不思議に思って周りに尋ねたら
死者が夜な夜な不気味な笑いとともに小豆を洗っているとか、
洗っている音に気を取られると川に落ちてしまうという言い伝えを知ることになる。
このような流れがセットでなければ妖怪たり得ないのである。

東方はこの流れをスマートにシステム化している。
妖怪(など)はSTGのボスとして突然遭遇し、スペルカードとして怪異を表現したのちに、すべてがはっきりしないまま去ってゆく。
どんな妖怪だったか度々自己紹介することはあっても、弾幕の模様が持つ意味、テーマ曲のネーミング、奇妙な帽子をかぶっている理由などある程度まで推測できても完璧に把握するのは難しいだろう。
それでいながら登場してから数分でものすごく気になる情報を通り魔的に一気に放出していくのである。
東方元ネタwikiなどからその実態を知ればいかに密度の濃いデザインがされているかがわかるだろう。
これなら妖怪のホラー要素がなくとも、妖怪との邂逅と認識を再構築してるといえる。
東方はシリーズがいくつも製作されても変わらずに新鮮なキャラの出会いを作り続けている秘訣だ。

もしこれを読んでいる方、特に東方Project原作をプレイしたことがないなら鬼形獣の体験版をSteamからDLしてその体験を味わってほしい。

 

*1:多々良小傘というキャラは例外的に「おどろけ~」といって登場してくる。アホかわいい。