ゲームブンセキ

ゲームの感想、分析、そしてリスペクト

デスストは山道観察ゲームだ

Death Strandingは原因不明の大爆発によって物流や通信が分断されたアメリカを再建すべく、伝説の運び屋と言われるサムが二本の脚でアメリカを横断するという壮大かつ途方もないゲームである。考えただけでアキレス腱が切れそうだ。

壮大さに対してやるべきことは至ってシンプルだ。目的地まで食料などの荷物を運ぶだけ。荷物の配達先までたどり着けば通信を復活できるので武器の作成や後述するオンライン要素が解放される。

 

ところがこの旅路には意外な問題が立ちはだかる。どこも道らしい道はなく、荒れ放題の山道ばかり。なのにマップ解像度は衛生写真のように粗めで、ここは通れないといった情報は事前にチェックし切れないのだ。

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タッチパッドボタンを押しながらコントローラを傾けると地図を立体的に傾けることができるが完璧に把握するのは難しい。

 

この山、斜面が緩そう!と思ってルートを決めたらゴツゴツの悪路だったり、川が狭いから歩いて渡ろうとすると身長を超える深さで流されたりする。
川の深さや斜面、悪路の判定が出来る「オドラデクセンサー」も周囲の限られた範囲にしか反応しない。いずれにしても近づくほど確実な情報が手に入るがその分、歩かなくてはいけないのである。つまりマップから目視、センサーと常に目を働かせて観察と予想をしなければ回り道を強いられるのである。

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解決法の一つとしてアイテムの梯子やロープを設置することでショートカットを作れる。しかしそれをたくさん背負うと重さでちょっとの斜面でぐらついて倒れてしまう。なのでラクするための梯子を積み過ぎて転んだという本末転倒を避けるため、やはりどれほどのアイテムが必要かをマップをみながら考える必要がある。


文字に起こすと笑っちゃいそうだが重い荷物を背負って苦労して急な坂を登った先に巨大な崖が現れたときの絶望感はテロリストの比ではない。いっそ銃で撃って欲しいくらいだ。主人公は死んでも蘇る能力を持っているのでただ銃で撃たれるだけなら「うっとおしいなあ」で済むのである。

 

それよりもこのゲーム最大の敵はこうした道のりの険しさと情報の不完全さによる不便である。

 

そうならないためにプレイヤーは荒地を観察する必要がある。そして「通れそう」「梯子の長さが届きそう」「無理そう」という予想を絶えず要する。

 

苦難の末に配達を済ませて通信を繋ぐと本作のオンライン要素が周辺に解放される。他のプレイヤーが置いた梯子や乗り物、監視塔が自分の世界に現れるのだ。するとバイクに跨がり川の橋を越えることができて、バイクのバッテリーが少なくなっても充電設備まである。これらは他のプレイヤーが感じていた不便に想像力で対抗した結果だ。平原が広い?バイクがあったらいいのに。川が深い?橋があったらなあ。長距離運転で充電がなくなりそう?充電設備が欲しい。

自分が感じていた不便を他プレイヤーと共有して解決する。通信が繋がる前は必要に駆られて想像力を駆使していたが、通信が繋がるとその想像力をよりポジティブに活かして他のプレイヤーに貢献することで「いいね」がもらえる。おかげて帰り道はあっという間だ。このゲームは不便が多いゆえに、とにかく「ありがたさ」が実感できるのである。

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とくに国道ができているのをみると、ありがたさが身に染みる。

 

他にも地縛霊的な敵である、BTの姿をハッキリと捉えられるのは足を止めているときだけなので攻撃するためにもセンサーの向きなどの観察が必要だし、テロリストとの対処も今の装備や隠れられる場所によって変わってくるだろう。

Death Stranding は常に地形を観察して想像力で解決策を探り、不便と戦うゲームだ。

本作は他にも不思議な生死観、個性的なキャラ、荷物の重みが伝わるような表現力、排泄物を武器にするユーモアさなど非常に多面的な魅力に溢れたゲームだ。そのすべてをとても書ききれるものではない。

だがもしこのゲームの素晴らしい点を挙げるとすれば「観察による予想のゲーム」というのは外せないだろう。小石につまづいて川に流された筆者はそう結論した次第だ。

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このあと川からどんぶらこ、どんぶらこ、と大きな落とし物が他のプレイヤーの川で流れていく。